佐野市郷土博物館では、佐野市制20周年を記念した第79回企画展「タイムトラベル!古写真と地図でたどる安蘇の150年」を開催中です。今回はその関連講座として、佐野市でも生活や産業の中にあった麻について取り上げた佐野再発見専門講座を実施しました。安蘇郡の語源という説もある「麻」のこと、昔から行われてきた手仕事について、講座・体験を通じて野州麻を感じとる講座となりました。
受け継がれてきた麻の文化を学ぶ

10月25日、講師にお迎えしたのは、栃木県市貝町で糸績み工房「itonami」を主宰する岩瀬希望さん。初回となるこの日は、「麻」という素材が日本の文化にどう根づいてきたのか、そして佐野市との関わりについて、丁寧にお話いただきました。
講座では、日本で育つ麻の種類や用途、起源についての解説から始まり、出土品や展示資料を通して、麻がどのように人々の暮らしに根ざしてきたかを学びました。さらに、麻が精麻(大麻の茎の表皮を取り除いた繊維)や布になるまでの生産工程についても紹介され、特に「湯かけ作業」で使われる道具・テッポウガマが佐野の天明鋳物で作られているという話には、参加者から驚きの声もあがりました。佐野市は「織物のまち」として知られていますが、麻との関係も深く、佐野織物の発展と衰退の歴史、遺跡から発見された麻の痕跡など、地域ならではの文化に触れることができました。麻は全国で作られていた素材ですが、佐野ならではの背景を知ることで、参加者の関心もぐっと広がったようです。

糸車を使って糸をつむぐ

2回目の11月1日は、麻の生産工程をもう一度おさらいしながら、実際に糸を紡ぐ体験へと進みました。
まずは、糸車の使い方を学び、講師の岩瀬さんが精麻をつないで糸車にかける実演を披露。麻には「紡ぐ向き」があるそうで、根元のほうを「頭」、葉に近いほうを「しっぽ」と呼び、「頭・しっぽ・頭・しっぽ」の順につないでいくのが大切なのだとか。方向を間違えると、うまく糸にならないという繊細な作業に、参加者も思わず息をのんで見入っていました。

ちなみに、一反(大人一人分の着物を仕立てるための布)を作るには、赤い桶に糸4杯分が必要とのこと。昔の人がどれほど丁寧に、そして大切に糸を作っていたかが、実感として伝わってきました。
そしていよいよ、精麻からヒモを作る実習へ。 精麻を細く割いて水で湿らせ、紡錘車に引っかけて反時計回りに回す。できたヒモは干して乾かします。最初はなかなかうまくいかず、戸惑う声もありましたが、岩瀬さんのアドバイスを受けたり、参加者同士でコツを教え合ったりしながら、少しずつ手つきも慣れていきました。作業中は頭としっぽに大混乱でしたが、手慣れてくると触るだけで繊維の方向がわかるようになるそうですよ。

作ってみよう!麻小物

最終日となった11月8日は、前回作った麻のヒモを使って、自分だけのブレスレットやストラップづくりに挑戦しました。博物館の工作室では、黙々と手を動かす人もいれば、隣の人と話しながら作業を進める方もいて、それぞれのペースで糸と向き合う姿が印象的でした。少しずつ形になっていく作品には、ひとりひとりの工夫や想いが込められていて、糸と向き合い自分と向き合う、穏やかな時間が流れていました。

作業のあとは、参加者全員で感想をシェアしました。 麻を扱う作業の細かさや手間に驚いたという声や、昔の人々の暮らしや知恵が少し身近に感じられたという感想が多く聞かれました。実際に手を動かすことで、麻や織物がただの素材ではなく、地域の文化や人々の営みと深く結びついていることを実感できたようです。
今回の講座を通して、かつて隆盛をきわめた麻や織物の文化、そしてそれを支えていた人々の手仕事の知恵と努力にふれることができました。 糸を紡ぎ、形にする体験は、過去と今をつなぐ、貴重な学びと体験になりました。



最後に参加された皆さんに寄せていただいた感想をご紹介します。全3回の講座はテーマにじっくりと向き合えるので、皆さんの感想の熱量が伝わりますね。
久しぶりに手仕事の楽しさを味わいました。実際に伝える人がいないとこうした手仕事は途絶えてしまいます。ぜひ伝える方法を考えていただけたらと思います。そしてこの講座を来年も設けていただきたいとお願いいたします。
麻の歴史を知ることができて勉強になりました。ヒモや糸を作る過程が大変ということを初めて知りました。普段使っている服、ヒモ、糸の見方が変わりました。
素材が麻、天然のものに触れる時の気持ちよさをすごく感じた。普段何気なく身につけているものがどのように作られ、自分の手元にくるのかに思いを馳せたことがなかったと気づく。麻の栽培がどれ程大変なことなのかを知らなかった。知ることは楽しいこと。
佐野市民文化振興事業団では、文化や芸術を気軽に楽しんでいただく機会を企画してまいります。最新情報はホームページや各種SNSをチェックしてくださいね。
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今回も講座の運営は佐野市民文化振興事業団の友の会 S・Cフラワーズと協力して行いました。佐野市の歴史や文化を探求するbe文活フレンズとイベントの企画運営を行うS・Cフラワーズの2グループが絶賛活動中です。「〇〇、ちょっと気になっているんだよね」ということがあれば、ぜひS・Cフラワーズの活動に参画してみませんか?
文化活動やグループ活動をしてみたい方であれば、友の会にご参加いただけます。毎回参加する必要はなく、都合のあう時や興味があるイベントのみ参加する方もいらっしゃいます。もちろん入会金や年会費、参加資格も特段ありません(イベントによっては交通費や実費が発生します)。
気になる方は0283-55-5666までお知らせくださいませ。日常にわくわくをプラスしたい方、ぜひお待ちしています!

